ミステリファン垂涎の【世田谷文学館】コレクション展〝「新青年」と世田谷ゆかりの作家たち〟

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今回は、【世田谷文学館】のコレクション展の様子をご紹介。
1階の展示スペースで開催されている〝「新青年」と世田谷ゆかりの作家たち〟です。
ミステリファン垂涎の稀少なお宝の数々が公開されていると知り、 SFファンであると同時にミステリ愛好家でもあるボクは、小松左京展と一緒に観てきました。

企画展のチケットがあれば無料で観られますが、「これだけ観たい」という人は、わずか200円(学割・障害者割あり)でOK。
何だかちょっと安すぎませんか、マジで。

ともあれ、入場します。
まずは、展示場の入口を入るとすぐのスペース。
なぜか照明が落とされていてちょっと戸惑っていると、係員の方がそっと近づいてきて「ただいま〝眠り〟の上映中ですので、よろしければこちらへ」と小声で説明をしてくれながら椅子を持ってきてくれました。

 

暗さに目が慣れて周囲を見渡すと、〝ムットーニからくり劇場〟の上映中。
椅子に腰掛けた数人のお客さんがじっと前方の箱のようなものを見つめています。

 

箱というのは、こちら。

photo:「ムットーニコレクション」リーフレットより転載

ちょっとわかりにくいかもしれませんが、60cm四方くらいの箱の中にジオラマの舞台があり、そこに電動からくり人形が。
そしてスピーカーからは朗々としたナレーション…というより、「語り」といった方がしっくりくる朗々とした声音が流れ、それはそれは幻想的な物語世界が綴られていきます。

 

え?
「ムットーニって誰?」ですって?

 

いや、実はボクも寡聞にして知りませんでした。
なのでオフィシャルサイトから引用しますと…

本名・武藤政彦。1956年 横浜生まれ。1979年 創形美術学校研究科終了。
1985年頃のヨーロッパ外遊を境にそれまで取り組んできた油絵を徐々に立体作品へと移行させる。
1980年代後半オルゴールタイプといわれる電動式の作品を作り始め、1990年ころからはさらに複雑な動きとスト
ーリー性を加え、現在のBOXシアタータイプのスタイルを確立。以後日本各地で展覧会を開催。
ムットーニオフィシャルウェブサイトより引用


photo:「ムットーニコレクション」リーフレットより転載

武藤さんだから、ムットーニ。
なるほど。

 

その〝BOXシアター〟と呼ばれる作品は、人形、仕掛け、ストーリー、そして、音楽とを巧みに融合させた総合アートといったところで、いずれも非常にメランコリックで耽美的な作風。
この日展示されていたのは
・「スピリット・オブ・ソング」(約5分)
・「眠り」(約6分)
・「漂流者」(約7分)
・「アローン・ランデブー」(約4分)
・「猫町」(約6分)
・「蜘蛛の糸」(約7分)
・「山月記」(約6分)などでしたが、
展示スペースいっぱいに、ほの暗くアンニュイな雰囲気が漂っていました。

 

これまた、なるほど。

 

というのは、この展示が、後に続く日本ミステリ黎明期の作家展への見事な導入になっているからです。
そう、次はいよいよ推理小説、というより「探偵小説」というべき、昭和初期の幻想的なムード漂う数々の作品群を生み出した巨匠たちに関する展示です。

 

広々としたスペースには、横溝正史を中心とした作家たちの草稿や生原稿、ゆかりの品々などがずらりと陳列されています。
もちろん、雑誌「新青年」のバックナンバーも。
ちなみに「新青年」というのは…

 

1920(大正9)年から1950(昭和25)年まで発行され、ミステリー作家・江戸川乱歩、横溝正史がデビューした雑誌が「新青年」です。しかし、「新青年」はミステリー専門誌ではなく、昭和初頭にはファッション、映画、スポーツなど先端の情報にミステリー、コラムなどモダンな読み物が呼び物となり、時代を一歩リードする雑誌としても知られます。また、多くの執筆者を輩出し、多面的な魅力を持った雑誌でした。
世田谷文学館公式サイトより抜粋

 

なんと、あの乱歩と横溝がデビューした雑誌です!!
当然今は発行されていませんが、現在でも根強いファンは多く、こんな研究書を発行している団体もあるくらいです。

 

展示されている原稿類を見て抱いた全体的な感想は…
誰も彼もが、かなりの悪筆。。。

 

某有名作家の担当編集者だという、友人の知り合いの話を思い出しました。
「先生の文字は私しか読めないから、どんなことがあっても担当を降りられない」

 

今でこそ PCで執筆される作家さんが多いと思いますから、原稿は最初からテキストデータである場合がほとんどでしょうが、昔はほぼ原稿用紙に万年筆の手書き原稿でしたからね、編集さんはさぞ大変だったことでしょう。

 

一角には小栗虫太郎の生原稿、それも「日本推理小説三大奇書」の一つであるかの〝黒死館殺人事件〟のものもあったのですが、これがまた、赤字の修正だらけで凄いことになっていました。
さらには、江戸川乱歩が横溝正史に宛てた書簡などは、あまりの読みにくさに訳(?)が添えてあるほどです。
ボクもまんざら関係なくはない経験をしたことがあるので、これらを見てしみじみ先人の苦労を思いました。

 

ちなみに江戸川乱歩は、病床の横溝正史に〝八つ墓村〟のギャランティについて「もっと請求した方がいい」というアドバイスをしていたようですが、実際その後どうなったのでしょうね。

 

そして病気といえば、〝黒死館殺人事件〟は結核の悪化で執筆できなかった横溝の代打として白羽の矢が立った、小栗虫太郎のデビュー作。
後の世に残る名作の誕生秘話はとても興味深いものですが、さらには後年その返礼として、小栗が44歳という若さで急逝した際、今度は横溝がその代打として「蝶々殺人事件」を探偵小説雑誌「ロック」に発表した、というエピソードも説明パネルにありました。

 

他にも横溝の私物の展示などもいろいろあった中で、特に面白かったのが「古賀政男ベスト」というカセットテープ。
横溝先生、石原裕次郎の歌声を聞きながら金田一耕助の探偵譚を書いていたのかと思うと、何とも…。

 

そうして最後に、こちらのコーナー。

金田一耕助のイラストと一緒に記念撮影ができるブースです。
この時ボクは一人だったし、自撮りはしたことがないので諦めましたが、こういうのってちょっとした記念になりますよね。

 

ということで、〝「新青年」と世田谷ゆかりの作家たち〟は2020年4月5日(日)まで開催されていますので、ご興味のある方はぜひ足をお運びください。
特にミステリファンにはオススメです!!

 

そうそう、あと一つ。
ボクが少々興奮気味に展示を見て回りながらボールペンでメモをとっていたら、係員の方がこんな鉛筆を持ってきてくださいました。

館内でボールペンを使うのは禁止なんだそうです。
調べてみたら、これ、こうした施設でのマナーとして常識のようですね。
おそらくは、心ない人が設備や展示品に落書きをしてしまったりした際も「鉛筆なら消しやすい」ということなんでしょう。
今回の鑑賞は取材も兼ねていたためにメモをとりながら回ったわけですが、ボクは普段こういうところでメモをとることはまずないのでまったく知りませんでした。
常識なくて申し訳ありません。
ちなみに、シャープペンもNG(先端が尖った金属だから?)のところがほとんどのようですので、持ち込む際には鉛筆が無難ですね。

 

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