【烏山寺町お庭さんぽ#04】新宿から世田谷へ遅れてきたやってきたスーパールーキー【多聞院(悲願寺)】
多聞とは仏教用語で、正しい教えをたくさん聞き、それを心に留めることだそうで、行くだけで賢くなれそうな大変縁起の良いお名前の多聞院さんのお庭にお邪魔しました。
【基本情報】
山号:金剛山
寺号:悲願寺(ひがんじ)
宗派:真言宗豊山派(しんごんしゅうぶざんは)
開山時期:1628年(寛永5年)
移転時期:1949年(昭和24年)
旧所在地:淀橋角筈
所在地:東京都世田谷区北烏山4-12-1
備考:御府内八十八ヶ所霊場3番札所、玉川八十八ヶ所霊場44番札所!
中央高速を北に抜け、最初にあるのが多聞院。間口が開放的で、遊具なんかもあります。
広い境内で一際目を引くのが、石造りの涅槃図。
高さ2メートル、幅3メートルという巨大なもので、横に寝転がるお釈迦様も巨大。でも、在りし日のジャイアント馬場さんの方がちょっと大きそう、そんなサイズ感です。
こちらの涅槃図は壺阪寺(奈良県にある南法華寺)から贈られたもので、多聞院の以前の住職がかつて壷阪寺の住職を務めていた縁によるそう。
インドのデカン高原産の特別な石を使用しているからか、しっかり立体感が出ていて、馬に乗る姿は躍動感に満ち、修行で痩せ細った身体はリアリティがあります。
ひぇっ! し、しにがみぃーー!
その脇には仏足石といって、お釈迦様の足跡をかたどったとされる石。
ここまで装飾的にデフォルメした四角形のものはあまり見ないかも。
その他、境内には地蔵菩薩をはじめとする石仏群。
多聞院の御本尊は地蔵菩薩とのことなので、知っているようで知らないであろうお地蔵さんのことを少しばかり掘り下げてみましょう。
まず外見ですが、通常、菩薩はお釈迦様の修行時代の姿を模されるため、緩やかなウェービーヘアなどで表現されるのが一般的ですが、見事なまでの……です。
そして、釈迦如来がこの世を去った後、5億7600万年か56億7000万年後に悟りを開くことが約束されている弥勒菩薩が現れるまでの仏不在の長い冬の間、人々を無限の慈悲で救い続けるという、とんでもない役目を背負っています。
なんだか、趣味でヒーローをやっているとある先生みたいです。
でも、これだけは覚えていて欲しい。
地蔵菩薩の眉間にある丸ぽっち。
あれ、毛だから。
そんな弱きを救う地蔵菩薩は、民間信仰の格好の対象となり、道祖神信仰と結びついて六地蔵が生まれたといわれています。
六地蔵は、六道輪廻、つまりどんな世界に転生しても必ず駆けつけて苦しみから救ってあげるよ?的な信仰と紐付きます。
【六道】→【対応地蔵】
地獄道→檀陀(だんだ)地蔵または金剛願地蔵
餓鬼道→宝珠地蔵または金剛宝地蔵
畜生道→宝印地蔵または金剛悲地蔵
修羅道→持地地蔵または金剛幢地蔵
人道→除蓋障(じょがいしょう)地蔵または放光王地蔵
天道→日光地蔵または預天賀地蔵
さらに、中国では死後の世界で亡者の審判を行う十王思想と結びついています。
十王思想を現世で擬似体験するなら、北鎌倉の円応寺(えんのうじ)が個人的なイチオシなんですが、何を言いたいかといえば、地蔵菩薩は閻魔大王と同一視されているということです。
「慈悲深きお地蔵様が悪人を地獄に叩き落とす冷酷無比な閻魔大王であるはずがない!!」
そんな阿鼻叫喚が聞こえてきます。はいはい。
でも、閻魔大王ったら一日に三回、どんな地獄にも勝る過酷な罰を受けてるそうですよ。
時間になると、それまで大人しく従っていた獄卒がトランプの大富豪で起こる革命よろしく、手のひらクルーッで閻魔大王に焼き土下座を強要して、ドロドロに溶けた銅を飲ませる。腸は焼けただれ、のたうちまわらざるを得ない地獄の苦しみを受ける。
いいか!いま先生はお前を殴った。殴られたお前は確かに痛いだろう。でも、殴った先生の方が本当はずっと痛いんだ!
という、熱血な学園ドラマ顔負けのハイカロリーな押し付けの世界が向こうには待ち構えています。
あー、何となく憂鬱だなーっていって命を絶とうとすると痛い目見るからな、生きろ。
というわけで、例の如く少しばかり掘り下げすぎた地蔵菩薩の話はこれくらいにして、多聞院の話に戻ります。
この多聞院、実は千歳烏山寺町の中で一番最後に移転してきたお寺だそうで。
元々は甲州街道に面していたというので、今でいうところの新宿の南口界隈にあった大きなお寺だったそうですが、1945年(昭和20年)5月25日の大空襲により、建物はもちろん、文化財の全てが焼失。
マジで戦争許すまじというところなのですが、その後の区画整理で千歳烏山の地に移り、壺阪寺をはじめとする様々な寺院から仏像やら涅槃図やらを分けてもらい、不死鳥の如き再建を果たしました。
多聞院には世田谷区からの調査が入った地蔵菩薩坐像、阿弥陀如来立像、不動明王立像、弘法大師坐像、千手観音菩薩立像、毘沙門天立像がありそうで、ちょっとした立体曼荼羅な空間が広がっているのでは?という期待が膨らみます。
とかく煩悩が多い僕なので、どんな風に転んでも救ってもらえそうなこういうお寺さんを終活の際は検討してみようかなぁ。
唯一気になったのはこちら。
いろんなトラブルがあるので防犯カメラの設置には大賛成ですが、錯覚の景観なので、焦げ茶色のボディカラーだと素晴らしかったなぁと。